「2010年問題」について

英語で「2010年」をどう読むかで触れた「問題」です.


このお話に関しては,「正しさ」なんてものはそれほど重要ではなくて,普通はどう読むのか,どう読まないのか,読み方によって聞き手にはどう聞こえるのか,と言ったようなことの方が私にとっては大切なのですが,ちょうどそれに関する面白い記事が「San Francisco Chronicle」にあったので,訳してみます.


前回の記事にもあったのですが,「文法にうるさい人に対する皮肉」のようなものを漂わせた雰囲気を伝えきるのはなかなか難しいので,ぜひ元記事を読んでいただきたいと思います.(はてブコメントを見て,割と真面目に捉えている人もいるのかも知れない,と思ったので.)

「2010年」をなんと呼ぶか?


「two thousand nine」から考えれば,あなたは「two thousand ten」と呼ぶのではないだろうか.実際,本紙がランダムに調査したYouTube動画のうち,5本に4本は,2010年をそのように呼ぶ人々が出演していた.


だが,それは間違い,それもひどい間違いだ.NAGG (National Association of Good Grammar) によれば.


NAGGはニュースリリースで,「2010を公式に『twenty ten』,またそれに続く全ての年も『twenty eleven』『twenty twelve』などのように呼ぶことを宣言するに至った」と発表した.


NAGGとは,トム・トリグリアという一人の男と,彼の友人数名を指す.彼らは,英語の授業に注意を払っていた.人々は,年の呼び方を10年間,間違え続けていると言うのだ.


「NAGGは,全ての人を正しい道に戻すべく存在しているのです」


トリグリアは,サンフランシスコの自宅で電話インタビューにこう答えた.


「1999年から2000年になるときには,戦いに負けました.でも,今度の戦いには勝ちたいと思っています」


「20」は常に「twenty」と発音されてきた,と彼は言う.そしてこうも指摘する.20世紀のあらゆる年は,「nineteen なんとか」と呼ばれてきた,と.


「19の次は20です.19の次に2000,とは続きません.当然でしょう」


文法を守る戦い


トリグリアは,二十年間,複数の会社に対して,技術説明書の執筆をする仕事を続けてきた.たとえばコンピュータソフトの使い方のような最もわかりにくい概念を説明するためには,論理的で,明快でなければならない.また彼は,意欲のあるテクニカルライターや,短期大学の学生に,ライティングを教えている.


トリグリアは1986年にNAGGを設立した.文法的に間違っている広告に関して,出版社に電話をしたときのことだ.


「彼らに文句を言いましたよ」


トリグリアは言う.


さらに彼は,「文法警察は眠らない」というタイトルの本を執筆中だ.文句を言うべきときが再び訪れた,と信じているのである.


2010年を「two thousand ten」と呼ぶのが間違いであるという考えを強調するために,56歳のトリグリアは,誰も


「私は1953年(one thousand nine hundred and fifty-three)に生まれました」


のようには言わない,と指摘した.


しかし2010年はそのように呼ばれ続けている.YouTubeの動画で,ある10代前半の子供は,「2010年 (two thousand ten) には」もっと多くのYouTube動画を撮る,と約束していた.別の動画では,黄色いダート・バイクに乗った青年が,「全ての新しい2010年 (two thousand ten) モデルに興奮している」と言っている.さらに別の動画では,「2010 (two thousand ten)」の形をしたメガネのノベルティをデザインしようとしている人たちが出てくる.


トリグリアにとって,これは我慢できない事態だ.


「TVコマーシャルでもそれ (two thousand ten) を聞きます.『マンデーナイトフットボール』のアナウンサーがそう言っていたんですよ.うんざりするでしょう」


とにかく,トリグリアはうんざりしている.彼は(スーパーマーケットの)セーフウェイのレジにある注意書き「10品,あるいはそれ未満 (less)」にうんざりする類の男なのだ*1


「(lessでなく)fewerでしょう」


彼は正しい.


そうではないかも


しかし,過去10年間に関して,別の選択肢があっただろうか? 新しいミレニアムを,耳に心地よい「two thousand」ではなく,しゃっくりのような「twenty oh oh」という呼び名で始めるべきだったのだろうか?


アーサー・C・クラークが彼の著作を「2001年 (Twenty Oh One) 宇宙の旅」と呼ばなかったのには,理由があるはずだ.


音韻論から言えば,トリグリアにとっては困難な10年であった.


「私にとって(2009年は)『two thousand nine』ではありませんでした」


彼は溜息をつく.


「常に,『twenty aught*2 nine』でしたよ」


新年モデルの車を売り歩く人々,テレビのニュースキャスター,あるいは何らかの理由で「2010年」を声に出して言わなければならない人は,正しい文法を受け入れ,今すぐ「twenty ten」と言い始めるべきだ,とトリグリアは言う.


だが,言語学で有名なUCバークレーのジョージ・レイコフ教授によれば,それは正確ではない.


「『two thousand ten』は間違いではありません」


レイコフ教授は言う.


「また,『twenty ten』が正しい,というわけでもありません」


彼の説明は,認知言語学における参照点や口語の標準,さらには,人々や文化の変化に従って文法が正しくなったり間違ったりする,という考え方を時代錯誤であるとする認識を含んでいる.


それにもかかわらず,レイコフ教授はこう予測する.


「『Twenty-ten』が主流になるでしょう.最も短い言い方だし,最もわかりやすいですから」


この点において,言語学の達人と文法警察の意見は一致する.構文論では同意できないかも知れないが.

2010 Twenty ten vs. two thousand ten


この記事に対するDiggのコメントを幾つか紹介します.

  • この組織名はピッタリだな*3
  • 文法とは何の関係も無いな.言い方の問題だろ.
  • 「Year of our Lord」の部分を忘れてるよ*5
  • ローマ数字に由来しているんだから,今日は,M-M-X年1月1日だ.
Grammar Police Decree Twenty Ten, Not Two Thousand Ten

*1:訳注:アメリカのスーパーには,買うものが少ない人専用のレジがあります

*2:零と同じ

*3:NAGGと「nag=文句を言う,nagger=粗探しをする人」をかけている

*4:アメリカの嘘ニュース

*5:in the Year of our Lordで,西暦〜年に,の意