効果的な英語の学び方
英語を勉強する上で気になるのは,
「どのように勉強するのが最も効果的なのか?」
ということです.
少なくないコスト(時間,そして必要ならばお金も)を投入する必要があるのは確かですから,やっても効果が薄かったり無駄だったりする方法よりは,「なるべく少ないコストで」「最も効果の出る」方法を模索したくなるのが人情というものです.
一方,英語の勉強法にはそれこそ多種多様なものがあって,いったいどれを選べば良いのか,わからなくなってしまいます.なかには宣伝文句が耳に心地よいだけで実際には効果のほとんど無い,詐欺的なものもあるのではないかと推測します.
また,「私は○○と××という勉強法を実践して効果があった」という「個人の体験談」については,WEB上にそれこそ星の数ほどの情報があるのですが*1,果たしてその方法が自分にも効果があるのかというのはわかりません.
その理由としては,たとえば以下のようなことが考えられます.
- 効果が出たのは偶然かも知れない(有意に効果が出る方法なのかわからない)
- 実践して効果が無かった人は「効果が無かった」とはあまり書かないと思います.成功例の裏にはもっと多くの失敗例があって,自分もその失敗例の方に加わることになるかもしれません.
- また,効果があったとして,それが本当にその勉強法の効果なのか,個人レベルではなかなかわかりません.以前やっていた別の勉強法との組み合わせが大事なのかもしれません.
- その人には適切な方法であっても,自分には不適切かもしれない
- 年齢や性格やその他の要因によって,効果的な勉強法にも適性というものがあるかもしれません.自分には別の勉強法の方が向いている,という可能性もあるのではないのでしょうか.
- 勉強法以外の外部環境の影響があるかもしれません.なぜ英語を勉強したいのかという動機の違いや,その勉強法以外に日常的にどの程度英語を使うのかで,効果の出方が異なるかもしれません.
もっとも,今の世の中,ちゃんとした勉強法で英語を学ぼうと思っている人であれば,上記のようなことは理解したうえで,いろいろな方法とその体験談を広くサーベイして,「これは単なる著者個人の体験で,普遍性は無さそうだ」とか「このやり方と同じようなことが別の本にも書いてあったし,理論的な裏づけもあるようだから有効そうだ」などといった感じで,各々に共通する部分をうまく抽出し,そうでない部分は排除して,自分なりの勉強法を確立しようとしているのではないかと思います.
一方で,そのようなことがきちんと体系的に研究されている分野が,実はあります.「SLA(Second Language Acquisition 第二言語習得)」という分野です*2.私は(そこで利用されているとある学術分野以外においては)全くの門外漢で素人ですなのが,下の本は非常にわかりやすく,とても参考になります.
- 作者: 白井恭弘
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/09/19
- メディア: 新書
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この本は,科学的にとても真摯な書き方をされていて非常に好感が持てます.最新のSLA研究の成果を,偏った見方をできるだけ排除しつつなるべく広く紹介しようという意図が伝わってきます.
ただし,そうすると巷に溢れる勉強法によくある,学習者にとっての「とっつきやすさ」「わかりやすさ」も排除されざるを得ません.結果,「この方法は無駄だからやめなさい」とか「これとこれとこれだけやっていれば大丈夫」のような極端な記述はありません.
それでも,第6章では「効果的な外国語学習法」と題して,SLAの成果に基づく方法が紹介されています.これは一学習者としても非常に参考になると思いますので,ここに簡単に挙げておこうと思います.
その理論的裏づけ,詳細については書籍を参照して頂ければと思います.
分野をしぼってインプット*3する
-
- 自分が興味があって,知っている内容の教材を使う.
- インプットを理解することが言語習得のカギ.
- 初級レベルでとりあえず何をやったらいいかわからないなら,中学校や高校の教科書がおすすめ.
例文を暗記する
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- 日常言語のかなりの部分が決まり文句で構成されている.
- 単文よりもダイアローグ(対話文)の暗記の方が効率がよい.
アウトプット*4は毎日,少しでも良いからする
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- アウトプットはインプットの効果を高める.インプットの内容について英語でコメントすると効果的.
- 日記をつける,ひとりごとを録音する,ネットでチャットする,など.
- 話すときは正確さと流暢さのバランスを取る.通じさえすればいい,という態度は長期的にはよくない.
コミュニケーション・ストラテジーを使う
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- well... um..., you know... といった「時間稼ぎ」を覚える.
- 言いたい単語が思いつかないときは,別の簡単な表現で置き換える.
- Oh, by the way... など,話を変える表現を身につける.自分の得意でないトピックを避けるのに使える.
無意味学習ではなく,有意味学習をする
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- 年齢を重ねると「丸暗記」の能力が落ちる
- 単語を覚えるときは,自分の持っている知識構造と関連付ける.
- 語呂合わせで意味づけをする,文脈の利用などは効果的.
単語は文脈の中で覚える
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- 外国語の場合,読書によって新しい単語を習得することは難しい.
- 意識的に語彙を文脈の中で覚えるようにする.
- コロケーション,文法的情報も同時に学習できるという効果もある.
発音・音声をまねる
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- 発音,リズム,イントネーションなどをできるだけ正確にまねる.
- リピート,シャドウイングをする.
- 正確に発音することに「興味」を持つ
「文をつくれる」くらいの基本的な文法をマスターする
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- アウトプットのためにマスターしておく.
- 余裕があれば,インプット理解のために高度な文法もマスターする.
- 説明を読んでも理解できないような難しい文法を覚えても無駄になりやすい.
動機づけを高める
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- 英語を話す人やその文化に興味,好意を持つ
- 英語ができれば受験や就職(転職)に有利になる,給料が上がって金銭的な利益を得られる,といった意識を持つ
自分にあった学習ストラテジーを使う
-
- 自分にあったやり方を無理矢理変えようとしても効果は少ない
- 効果があると分かっている方法でも,やりたくない学習者に強制しても長続きしない
なお,「こんな方法とっくに知っているよ」という方も大勢いらっしゃると思います.私も,この本を読む以前から,ほぼ全てを実践していると言っても過言ではありません.
ただ,下のような視点は非常に大事だと思いますし,今後も気をつけていこうと思っています.
ここで紹介してあるようなことは,すでにその一部,もしくはほとんどを実践している人もいるかもしれませんが,その場合も,研究成果にもとづいた理論によってその方法の正しさが裏づけられるという意味で,役に立つのではないかと思います.
外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か p.164
最後に,この記事を書くに当たっては,下記のコメントを参考にさせていただきました.100%同意します.
id:isikaribetu07 Language この内容がそんなにおかしいとは思わないが、(はてブの傾向として)個人的成功体験の類に頷いてるばかりなのもどうかと。白井恭弘『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』(岩波新書)のような本も読もうよ。
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